きっちゃんディズニーに行く③~きっちゃん初めての飛行機~

旅行前日のニュースは台風の話題ばかり。

2019年9月9日 すこし暑いけど、お天気の朝を迎える。
夜中の窓を打ち付ける雨の音と風の音が嘘のように。

7時30分
「松丸さん、おはようございます。もうすでに出発されていますよね。
欠航しなくてよかったです。」
渕さんからそうメールをもらった。

雨が降ることなく、北九州空港へ。4歳のきっちゃんが、北九州空港から、初めての飛行機に乗り込んだ。

きっちゃん家族、ANAでUniversal MaaS(ユニバーサルマース)に取り組んでいる大澤信陽さん(前日に東京から北九州に来てくれた)と一緒に。

きっちゃんは膝が曲がらないので、まずお父さんが座り、その膝の上にきっちゃんを抱っこした。

離陸し、きっちゃんと、空から北九州市の街を見た。
街はとても小さく小さく見えた。

私たちが日々不安に思ったり、できないかもしれないと悲観したりすること。
それはこの大空から街を見るように
小さな小さなことなのかもしれない。

青いグラデーションの中にわたしときっちゃんは今確かに存在していて、街を眺めている。
日々の生活に戻ると忘れてしまう景色かもしれない。

でも、今この瞬間の記憶があれば、またいつか街の中に埋もれて悩んだ時に
きっと空を見上げて「大丈夫。」そう思えるような気がした。

「空を見上げることができれば大丈夫。」
荒木先生に教えてもらった言葉になんどもなんども励まされた。この飛行機に乗っている今も、「その言葉に背中を押してもらったからだなあ。」そんなことを考えていた。

青いグラデーションから白い雲の上に位置した時アラームの音がなる。きっちゃんの呼吸状態を表す血中酸素飽和度(SpO2)のアラームが鳴り響いた。他のお客さんに迷惑にならないように音は小さくしていたが、私の耳にとってそれは大音量に聞こえた。

瞬く間にきっちゃんのSpO2は80%台へと降下する。アンビューバック(人工呼吸に用いる医療機器)を手にした。でもその途端Spo2は折り返したように上昇する。きっちゃんの表情は穏やかだった。そもそもSpO2は呼吸に異常がない私たちでも、空の上では低下するものだと知った。

「下がったねえ。」
きっちゃんのお父さんとそんな会話をした。思いのほかきっちゃんのお父さんは落ちついていた。その横顔は日頃から24時間医療と共に生活をしている医療的ケア児の父の顔だった。(私は医療的ケア児というネーミングがあまり好きではないが、ここではあえて医療的ケア児の父と言いたい。)

たわいもない会話をお父さんとしたんだと思う。でもあまり覚えていない。慌ててもいない。ただそこに医療従事者として座っている緊張感はどこかあったように思う。

次に記憶にあること、それはカフが膨らんだこと。

気圧の変化で、呼吸を助けるためにきっちゃんの喉の穴に通された気管のチューブ(気管カニューレ)のカフ圧が上がり、カフ(風船のような形状)が膨れ上がった。カフが膨れたらシリンジ(注射器)で圧の調整をすればよい。ただそれだけのこと。

カフは、膨れ上がりすぎると気道を圧迫するため、カフ圧計やシリンジで定期的な調整が必要だ。

飛行機の離陸時の気圧の変化でカフ圧が上がるということがわかったので、このことを航空会社にも把握してもらい、医療デバイス(装置)を持ち込んでいる人への事前の声かけやアナウンスをしてもらえるようになるといいなと思った。

そうすれば、付き添う人が、離陸前にはシリンジを手に持って構えておくこともでき、より迅速な対応ができると思う。
後日MEの松井晃先生がFacebookの小児在宅医療コミュニティでこう記載してくれている。

「飛行機の気圧は0.8気圧。カフは膨れてしまう。ポテトチップの袋がパンパンになるのと同じですね。勉強になります。大旅行、おめでとう~!」

0.8気圧…。わからん…。
難しいけど。飛行機の旅行の時はシリンジを片手に。

何かが起きたら対応する、処置をする。淡々とそれを繰り返す。医療従事者として。
私たちのお仕事はただ、医療が必要な子どもたちの願い叶えるために側にいて、医療従事者としてできることをやっていくだけだ。
すべてができるわけではない。スペシャルな専門家の力を借りること。そばに見守ってくれる人のことばに力をもらうこと。それが大切なようにも思う。

人生は予測がつかないことだらけだと思う。
それは医療が必要であっても、そうでなくても。
進みたい道を歩くのか、そこにとどまるのか。
側にいる人の想いが、進みたい道を歩くその背中を押すことができると思っている。

私は、子ども達と家族の笑顔いっぱいの物語の中で、そーっと小さな登場人物でいたい。

飛行機は揺れた。少し残っていた台風の影響で。
ジェットコースターみたいに。
そんな中
「出たみたい…。」
きっちゃんのお父さんがにんまり笑う。

事前に、渕さんたちとの打ち合わせをしていたことを思いだす。
話し合いを重ねてて良かった…。
オムツ交換をする場所については渕さんがCAさん達に話をしてくれていた。
美しいスレンダーなCAさんに声をかける。
「はい。こちらへどうぞ。」

きっちゃんをその場所に移動し、床にマットを敷いて、その上に寝かせた。
了解して頂いていたとは言っても、もしここで感染でも起こしてしまったら、CAさんのご厚意もこの旅行に力を貸して下さった方達の優しさも、何もかも台無しになってしまう。
お父さんと一生懸命オムツ換えをしている中、私は普段に増して感染対策を徹底しながらサポートした。揺れる揺れる。台風の影響ってすごい。
意識は感染対策ときっちゃんの安全へ向けながら、
「思い出に残るオムツの交換やねえ。」なんてたわいもない会話をした。

東京羽田空港へ到着。

空港からは、介護タクシーに乗ってディズニーランドへ。

ディズニーに着くと、オレンジのお兄ちゃん紅谷浩之先生が声をかけてくれた。子ども達に会えたことをとても嬉しそうに。
私たちのわくわくする気持ちを知っているかのように

きっちゃんが大空を飛び、やってきた夢の国「東京ディズニーランド」は、
「きっちゃんよく来たね!」と歓迎してくれているように、
気持ちの良い青空が広がっていた。

執筆者の紹介

「きっちゃんディズニーへ行く」のブログ作成のためのインタビューと執筆を担当しましたwebライターの竹馬涼子です。私は、にこりの訪問看護にお世話になったにこりっ子のママでもあります。息子が天国に旅立ち、ライターの仕事を再開している時に、にこり理事長の松丸さんから声をかけて頂き、にこりの一員としてにこりブログ制作のお手伝いをさせて頂くことになりました。

にこりブログの制作を通して、松丸さんの想いやにこりの活動を一人でも多くの方に知って頂き、社会がもっと優しくなれるお手伝いをしていきたいと思っています。松丸さん、にこりはもちろん、医療的ケアが必要な子ども達とご家族への心からの応援の気持ちを込めて、丁寧に執筆させて頂きます。

にこりインタビューブログ担当 竹馬涼子

 

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【目次】 きっちゃんディズニーへ行く(全5話)
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きっちゃんディズニーへ行く① ~医療的ケア児とディズニーへ行こう!プロジェクト~
きっちゃんディズニーへ行く② ~スターフライヤーが協力してくれることに~
きっちゃんディズニーへ行く③  ~初めての飛行機で~
きっちゃんディズニーへ行く④  ~この旅行の意義~
きっちゃんディズニーへ行く⑤  ~当たり前に助け合える社会への一歩~(※準備中)

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