9月24日 NHK総合「おはよう日本」の全国放送で
「医療的ケア児とディズニーへ行こう!プロジェクト」の様子が紹介された。
NHK以外にも、参加したご家族が全国の地元のメディアから取材を受けていて、様々な形でこのプロジェクトの様子が社会に伝えられた。
このプロジェクトに参加した子ども達の体験が、同じように「旅行してみたい」と願う子どもたちの力になることができるかもしれない、そう思えた。
そして、プロジェクトを終えた翌月の10月31日。
この旅行を通じて得た気づきをさらに社会へと広げていこうと、オレンジキッズケアラボ主催でプロジェクトに参加したご家族らを招いてのシンポジウムが開催された。
きっちゃんのお父さんはオンラインでこのシンポジウムに参加し、こう話していた。
「今回の旅行で、きっちゃん本人が飛行機に乗れるんだよと証明してくれた。
飛行機という交通手段が選択肢の中に入ったのはすごく大きい。
いつか、海外にも行けるんではないかと期待も持って、成長と共に検討していきたい。
大きな音に反応しててんかん発作が起こることも心配していたが、問題なく行けた。
今後は、旅行先にアミューズメント施設を選択肢として入れられるなというのがすごく大きな進歩。
そしてなにより、参加したことで同じような境遇の家族と関わることができて良かった。」
私も、今回一緒に旅行をして初めてわかったことがいくつもある。
飛行機の離陸時にはカニューレのカフが膨らむこと。飛行機でのオムツ交換場所の確保には事前情報の共有が必要なこと。
点字ブロックはバギーへの振動が大きくて、首が座っていない子ども達は点字ブロックを通るときにスピードをゆっくりにする必要があるということ。
でも、揺れが好きな子どももいるから点字ブロックの通過のときは子どもたちの反応をみることが大切だということ。
モバイルバッテリーは大活躍した。いのちの電源。
医療機器の多くは電源を必要とするため、モバイルバッテリーがあると行動範囲が広がる。
段差を苦手とするバギーに乗る子ども達や、長時間の暑さに対応することが苦手とする子ども達にとって、障害者手帳を提示すればディズニーのアトラクションの裏口から入れることは、とてもありがたかった。
業者さんにお願いすれば、旅行先のホテルの部屋に人工呼吸器を載せる台を用意してもらうことができること。きっちゃん家族はこれまでの外泊時、この台がないことでとても苦労してきた。今回はフィリップスの地元の担当者が、ディズニーを管轄する支社に連絡し架台を準備してくれていた。
やってみてはじめてわかること、やってみないとわからないことがあるなぁと感じる。
やってみたらその日の出来事が「やってみたことある」と次の力になるんだなぁと。
医療が必要なことを理由にあきらめないといけないことがあるのはなんだか悲しい。
多くのお母さんは、
この子にいろいろな経験をさせてあげたい。
喜ぶ顔がみたい。
お友達をつくってあげたい。
そう思っているように感じる。
ひとりで頑張って、一つの体験をさせてあげることができなかったとき、自分の力不足を感じてなんだかわが子に申し訳ないような、母親としての力が足りないからなのかと悩み、あきらめた体験を重ねることで希望が持てなくなってしまうんじゃないか。
一人で精一杯頑張ってみた。でも出来なかった。そんな風にひとり悩んでいるお母さん達がいる。
お母さんたちは知っている。わが子の楽しい時、笑っている顔、怒っている顔、嫌いな時、好きな時。
届くといいなと思う。お母さんたちの声が。
社会に。まちに。隣にいるみんなに。
お母さん達が必要にしているのは
一緒に考え、一緒に行動し、どうしたらいいのか他人事ではなく、ちょっとだけ自分ごとに考えてくれる人。
ちょっとだけ力を貸してくれる人たちなように思う。
医療が必要な子どもたちのお母さんの多くは、伴走してくれる人が必要なように思う。
周りの人のそれぞれの専門性を活かし、お母さんや医療が必要な子ども達が「無理だな」「できない」「叶わない」
そんな想いから、「できた」「できるかもしれない」にシフトする関わり。
成功体験を積み重ねることで、人は強くなれるように思う。
そして、今回の旅行で感じたこと。
この子達がどんどんまちに出て行けば、関わる人たちはきっと力を貸してくれる。
皆、知らないことは怖い。どう力を貸したらいいのか戸惑ってるように思う。
たった一日の触れあった経験が、まちの人にとっても0-1体験となり、自然と助け合う社会になる。そう感じた。
今回の旅行でも、子どもたちが歩くところには、さまざまな優しい眼差し、優しい手があった。
知らないことに一歩を踏み出すのには二の足を踏んでしまうことがある。医療的ケア児とその家族を見かけても、何かしたいけど何をしたらいいのかわからない、と思っている人が多いように感じる。
医療的ケアが必要な子ども達が社会参加することで、社会の人たちが知らなかったことを知ってもらえる。
知ってもらえるだけで、医療が必要な子ども達への関わりはとても優しいものに変わる。そう感じた。
これからも、にこりっこは最初の一歩を踏み出す勇気をくれると思う。
それが、誰かの一歩、どこかの会社の一歩に繋がって、連鎖でどんどん社会が良くなると思うから。
伝えていくことはわたしができる小さな役割の一つかもしれない。
今回協力してくれたスターフライヤーも、次の例に続くようにとCAさん向けの研修を開催してくれた。
それが新聞記事となりNHKで放送されることなった。
今回の旅行を経験したきっちゃんの家族自身も、次は海外旅行に行きたいと更に希望を持てるようになった。
そんなきっちゃんご家族を見た、他のにこりっ子のご家族も、旅行に行ってみよう。
大阪に行ってみたい。ディズニーを目標にしよう!と希望を持って前向きな言葉をかけてくれた。
誰かが小さな一歩を踏み出すことが、誰かの明日に生きる力になる。
明日に希望を持つ子ども達やその家族が増えれば、社会は変わっていくような気がした。
そしてその社会は、他人事に感じていた医療と共に生きる子どもたちやその家族を、
少しだけ自分事に考えることで自分達も暮らしやすい社会になっていくことに気づくと思う。
他人事のようで、全て自分に繋がる。
「バギーや車椅子の移動の困難を解消するためのエレベーターは、スーツケースやベビーカーの移動の困難を解消した」 Universal MaaSに取り組んでいるANAの大澤さんに教えてもらった。
一人の困難を解決する道は高齢者やこども連れ、色々な人の笑顔いっぱいの道につながるんじゃないかなと思う。
きっちゃんが「医療的ケア児とディズニーへ行こう!プロジェクト」に参加するための計画、実行、終えるまでの全ての過程が、今の社会があらゆる人にとって優しい社会になるための一歩に繋がったのではないかと思う。
このプロジェクトに関わった人全てが笑顔いっぱいだった。
参加してよかった。関わることができてよかった。
紅谷先生が教えてくれた0-1体験という言葉。
0を1に変えていく出来事は踏み出すことに躊躇してしまうような「リスク」という言葉が隣り合わせ。
でもとても大切な言葉のようにも思う。
リスクと向き合い、何が起きても対応できる力をみんなで強くした今回の0-1体験が
「大きな道の始まりになれた」「その道に続く物語ができた」といつか振り返ることができますように。
医療的ケア児と言われる子どもたち。
いろいろな性格があり、好きな遊びもそれぞれ違う。
健常と言われる子どもたちと同じように。
医療的ケアが必要な子ども達は、ただケアを受けるだけの存在ではない。
今ここに生きている。社会の中で強く強く生きている。
社会に伝えることのできるメッセージをたくさん抱えて。
にこりにとって子ども達はいつだって主役。
にこりは子ども達の物語の1ページに、そっと脇役で登場するチームであり続けたい。
子ども達の無限大に広がる可能性を信じ、一緒に楽しむことができる大人が集まれば、
これからもっともっと楽しい未来が待っているような気がする。
大人も子どもも、みんなでワクワクしよう。
あらためてそう思えた、きっちゃんの旅。
私も支えられてばっかりの毎日。にこりっこやその家族にも支えてもらっている。
「ありがとう」のことばに力をもらい、「松丸さん、体大事にしてよ。」お母さんたちに貰う言葉に泣きそうになったり。
ありがとの気持ちでいっぱいの毎日だ。
執筆者の紹介
「きっちゃんディズニーへ行く」のブログ作成のためのインタビューと執筆を担当しましたwebライターの竹馬涼子です。私は、にこりの訪問看護にお世話になったにこりっ子のママでもあります。息子が天国に旅立ち、ライターの仕事を再開している時に、にこり理事長の松丸さんから声をかけて頂き、にこりの一員としてにこりブログ制作のお手伝いをさせて頂くことになりました。
にこりブログの制作を通して、松丸さんの想いやにこりの活動を一人でも多くの方に知って頂き、社会がもっと優しくなれるお手伝いをしていきたいと思っています。松丸さん、にこりはもちろん、医療的ケアが必要な子ども達とご家族への心からの応援の気持ちを込めて、丁寧に執筆させて頂きます。
にこりインタビューブログ担当 竹馬涼子
——————————————————-
【目次】 きっちゃんディズニーへ行く(全5話)
——————————————————-
きっちゃんディズニーへ行く① ~医療的ケア児とディズニーへ行こう!プロジェクト~
きっちゃんディズニーへ行く② ~スターフライヤーが協力してくれることに~
きっちゃんディズニーへ行く③ ~初めての飛行機で~
きっちゃんディズニーへ行く④ ~この旅行の意義~
きっちゃんディズニーへ行く⑤ ~当たり前に助け合える社会への一歩~