きっちゃんディズニーへ行く④  ~この旅行の意義~ 

心配した台風も、みんなの想いを前に退散したようだ。

東京ディズニーランドに、日本全国から、8組の医療的ケア児とその家族、付き添いの医療従事者ら総勢42人が無事に集まった。

きっちゃんの最初のアトラクションは蒸気船マークトウェイン号!

この日はとても暑かったので、きっちゃんはサングラスと扇風機を装備して、専用入り口の日陰で待たせてもらった。

キャストから乗客の皆さんに「最初に乗り込み最後に降りて頂きますのでご協力を」とアナウンスして頂くなど、ディズニー側からの配慮もありがたかった。



楽しい時間を共有させてもらいながら、私はきっちゃんの体温と水分のコントロールには注意を払った。

人工呼吸器などの医療デバイスのあるこども達は体温コントロールを苦手とすることが多い

暑い日にはかなり体温が上がったり、寒い日には熱が測れないほど下がったり、それに伴って息が苦しくなったりすることがある

体温が上がりすぎたり下がりすぎたりする前に早めに対応することが重要なので、まめに体温を測りながら、胃瘻(きっちゃんは胃瘻というお腹の表面と胃につながる穴があり、そこから40cm程のチューブが入り十二指腸に直接栄養が入るようになっている。)からの注入液の温度を調整したりした。

水分コントロールについても、本人「喉が渇いた」と言葉にはできないけれど、きっちゃんは必ず「喉が渇いた」サインを表現してくれる。そのサインに気が付くことは私たちの役割でもある。

汗をかくなどの体温調整を苦手とするので、どれ位の水分を補填するのがベストなのか、きっちゃんの表情や心拍、口腔内の乾き、皮膚の乾燥やおしっこの量などを見ながら調整した。

それぞれの役割

私も、きっちゃんを抱っこして多くのアトラクションに同乗した。
でも、今回は、医師がいるという安心感がとても大きかった。
看護師の役割、医師の役割。それぞれの得意とするところは違う。だからこそチームとなることが求められる。
その行為は「医療従事者のために」になっていないか?それは保身なのか、子どものためのリスク管理であるのか?
常にそう自分に問いかけながら、いつだって「何のために?」の答えが「子どもたちのために」でありたい。

 

ご家族にとって、看護師からの言葉だけじゃなく、医師の専門的なアドバイスを聞けることは大きな安心感に繋がると思っている

看護師にとっても、医師の専門的な見解や指示があるのは本当に心強い。それぞれに違う役割がある。他職種の得意なところでチームの力を最大限にすることが子どもたちにとってベストになるのではないか、そう思っている。
日頃のきっちゃんの様子をよく知っているのは私たち看護師だが、疾患についてより詳しい知識があるのは医師だからだ。
そして、今回改めて感じたのは、きっちゃんのことはいつも一緒にいるお母さんが一番よくわかっているということ。

 

細かい変化に気づき、きっちゃんが今どうして欲しいのか誰よりもわかってあげられるのは、やっぱりお母さんだ。

この旅行が、きっちゃんの体調が崩れることなく無事に楽しい旅行となったのは、「何があっても大丈夫。きったの喜ぶ顔がみたい。そう思っていたお父さんとお母さんの力だと思う。

きっちゃん以外の参加者も、皆それぞれに、アトラクションやショーを楽しんでいた。

アトラクションの中には、バギーのまま楽しめるものもあって、ディスアビリティアクセスサービス(疾病や負傷などによって体の機能が低下し、お手伝いを必要とする方の負担を軽減するため、例えば事前受付によって列に並ぶ時間にグループ全員が他の場所で過ごせるサービス)等もうまく使いながら、皆が充実した時間を過ごせたようだった。

夜は、参加者皆、バギー・車椅子エリアに入らせてもらって、爽やかな風が吹く中エレクトリカルパレードを楽しんだ。

キラキラのイルミネーションは、きっちゃんの心にどんな風に映っただろう。

生きることは楽しむこと。

ディズニーに来てから、きっちゃん家族はいつもに増して笑顔全開でわたしはその笑顔にまた力をもらったなあなんて考えていた。

お母さんお父さんは、参加者同士で情報交換をしたり、旅行中の楽しい話を共有したりして盛り上がっていた。

きっちゃん家族にとって、大満喫の旅行になったようだ。

私も、語りきれないほど嬉しいことがたくさんあった。
医療従事者としてそこにいる。わたしたちは病院という閉鎖的な環境においてどうしても疾患に目がいきがちだけど

どうやったらちいさな当たり前の願いを叶えられるか?
安全を担保しながら楽しむための方法を考えていきたい。
経験を、知識を力に変えて、目の前の子どもたちの願いを叶えたい。

書を捨てよ。町に出よう。

そんなことを考えていた。

教科書で学んだことは力になるが目の前の子どもたちの物語は教科書には書いていない。

同じひと、同じこどもという定型はないのだと思う。

目の前の、子ども達の物語を知ることが大切だと。そう学ばせてもらっている。

 

きっちゃん一家は、今までも、外泊を積極的にやってきていた。呼吸器と共に。

最初は、にこりも一緒にお出かけしていた。そうすると家族自身が力をつけていく。

看護師の同行なしでの受診から始まり、コストコにも行っていた。

きっちゃん家族はどんどん力をつけ、自分達だけで近くの宿泊施設に外泊することもしていた。

「自助」の意識が高く、災害時に避難する力をつけるためにも、積極的にきっちゃんと一緒に外に出る経験を積まれているご家族だ。

町に出ることを繰り返すことで力がついていく自助。それをきっちゃん家族は教えてくれる。

人工呼吸器が必要な子どもをお母さん達だけで外に連れ出すのは簡単ではない。

実際に、今まで一度も外に出たことがなかった母子が、災害時逃げることを諦めたという事実が数件ある。

 

楽しい気持ちは人を動かす。

にこりは、医療的ケア児が災害時に安全に避難できる力をつけるための活動している。

哀しみだけが先に立つ支援ではなく、

楽しいお出かけがいつのまにか自助に変わるようなサポートをしていきたい。

人工呼吸器が必要な子は、外出する時も数種類の医療機器が欠かせない。

医療機器の中には3kgを超えるものもあり、突然アラームがなることも、移動中に医療処置が必要になる場合も多々あり、そのことが外出に踏み切れない理由の一つでもあるだろう。

家では問題ない呼吸器のための加湿器も、外出時には大荷物になりすぎるため人工鼻に変えるのだが、その作業一つとっても、不慣れなお母さん達には大変な作業になる。

人工鼻に変えるためには人工呼吸器の回路を外さなくてはならず、その間息が出来なくなる。

だから、アンビューバック(人工呼吸のための機器)をする人と、回路を変える人の二人は必要になる。周りの人のちからが必要だ。

この一連の作業を全く経験したことのないお母さんが

退院前に、病院の敷地内での移動だけでも体験させてもらえたらいいなあと思う。
ちょっとした段差でもバギーに横になる子ども達にとっては衝撃が強いことや、お出かけのたびに人工呼吸器回路を変えることが必要だと知ることができ少しでも心構えができるだろう。

訪問看護も、制度上では「家の中で行うもの」とされている。

にこりでは、子ども達が当たり前に町に出る活動を支えたいという想いから、医療的ケア児のお出かけのサポートをしている。

お出かけのサポートをし、家族が外出する経験を積むことが、医療的ケア児と家族の災害時の備えになるんじゃないかと思っている

そして、医療的ケア児と家族が「自助」の力をつけるサポートをすることは、自分達の役割でもあると思っている。

今回のように、医療的ケア児が飛行機に乗って1泊2日の旅行をするということは、とても意義のあることだときっちゃんが教えてくれた。

きっちゃんや、医療を必要とする子ども達がお出かけすること。楽しい時間を過ごすなかで力がついていく。そんなサポートをしていきたい。

執筆者の紹介

「きっちゃんディズニーへ行く」のブログ作成のためのインタビューと執筆を担当しましたwebライターの竹馬涼子です。私は、にこりの訪問看護にお世話になったにこりっ子のママでもあります。息子が天国に旅立ち、ライターの仕事を再開している時に、にこり理事長の松丸さんから声をかけて頂き、にこりの一員としてにこりブログ制作のお手伝いをさせて頂くことになりました。

にこりブログの制作を通して、松丸さんの想いやにこりの活動を一人でも多くの方に知って頂き、社会がもっと優しくなれるお手伝いをしていきたいと思っています。松丸さん、にこりはもちろん、医療的ケアが必要な子ども達とご家族への心からの応援の気持ちを込めて、丁寧に執筆させて頂きます。

にこりインタビューブログ担当 竹馬涼子

 

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【目次】 きっちゃんディズニーへ行く(全5話)
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きっちゃんディズニーへ行く① ~医療的ケア児とディズニーへ行こう!プロジェクト~
きっちゃんディズニーへ行く② ~スターフライヤーが協力してくれることに~
きっちゃんディズニーへ行く③  ~初めての飛行機で~
きっちゃんディズニーへ行く④  ~この旅行の意義~
きっちゃんディズニーへ行く⑤  ~当たり前に助け合える社会への一歩~

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